オーストラリアコウイカの場合,繁殖可能なメスがオス11匹に対し1匹しかいないため,争いは熾烈を極めるが,メスはやはり,色の鮮やかな大型のオスに近づいていく。メスがオスを選ぶと,カップルは産卵をするために集団の外れへと泳いでいく。すると,メスを獲得できなかったオスは,カップルに近づいていく。そしてここでも,瞬時に色を変えられる能力を利用する。たとえば小型のオスは,メスを守っているオスがほかのオスとの戦いに気を取られているすきに,鮮やかな熾烈な色でメスに求愛する。あるいは,岩のような色になって海底の模様に溶け込み,カップルにひそかににじり寄る。この場合,たいていそのオスは,メスのような姿をして近づいていく。そうすれば,カップルのオスに警戒されることなくそばに行けるからだ。こうして近づいたオスは,カップルのオスとメスの間に体を滑り込ませ,メスのすぐそばに陣取ると,鮮やかな色で求愛行動を始める。だがこのオスがそのような色彩をきらめかせるのは,体の一方の側,すなわちメスに向かい合っている側だけだ。ライバルのオスから見える側は,メスのような姿のままにしておくのである。
ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.192
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