社会革命直後のウズベキスタンでの調査。革命前まではイスラム教の伝統的因習の下で,大部分は読み書きができなかった。革命後,「文盲」撲滅運動が起き,中等学校や職業技術学校が作られ,特に若者たちは読み書きと科学の基礎を習得していった。
このような変化の中,(1)読み書きができず新しい社会の形態にも参加していないグループ,(2)短期の講習を受けて多少の読み書きができる程度のグループ,(3)学校や講習会に2〜3年いて,職業技術学校に入学した読み書きができる者のグループ,が併存した。
これらの住民に対して,知覚,抽象的概念,推論,自己意識などについての実験的調査を行った。
読み書きのできないグループの者の思考の特徴として,抽象的な一般化された論理的思考ができないこと,つまり,概念的思考が成立していないことが挙げられる。彼らの思考は,具体的な場面や行為を離れられない直観ー行為的次元にとどまった。
ルリヤはヴィゴーツキーにならい,このような思考を「複合的思考」と呼んだ。概念は,個々の対象を,抽象した共通の本質的特徴によってグループにまとめるが,複合は,個々の対象を,それらが具体的な事実として近接した関係にあるということで,ひとつにまとめる。したがって,個々の対象は偶然的(非本質的)な事実関係という脈絡の中でまとめられ,体系性を持たない。概念的思考においては,犬と鶏と小麦と庭木は生物という抽象化された共通の本質的特徴で結合されるが,複合的思考においては,たとえば,それらはみなペトロフのものであるということで,ひとつにまとめられる。
中村和夫 (2004). ヴィゴーツキー心理学完全読本 新読書社 p.34-35
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