顔の固定観念は印象を形成するさいの初頭効果である。つまり最初の情報のほうが重視されるので,顔の固定観念に対抗するいちばん手っとり早い方法は,顔を見るまえに行動と性格特性にかんする情報を手に入れることである。じっさいに,デートの相手選びで魅力や人格特性が異なる女性にたいする関心を述べるよう男性に求めたところ,情報を与えるタイミングが決定的であった。魅力的な女性はタイミングに関係なく好かれたものの,性格の情報は顔を見せる前に見せると効果をしめしたが,顔を見せたあとでは効果がなかった。肯定的な性格をそなえた女性が否定的な性格をそなえた女性よりも好かれたのは,顔を見る3秒前に性格の情報を見たときで,これにたいして,顔をさきに見たときには,性格は男性の好みに効果を示さなかった。
実質的な情報を得て容貌を見るまでのわずか3秒の差で違いがうまれるのなら,直接対面するまえにその人のことがなにかわかれば,それは顔の効果に対抗する大きな力になると思われる。人事選考にたずさわる人は,求職者に面接するまえに,写真が添えられていない履歴書をよく読んだり,あるいは電話で話したりすれば,偏見が少なくなるだろう。教師は成績と生徒の顔を結びつけるまえに採点すれば,偏見がなくなる。陪審員の選考にたずさわる人は,顔が見えないようにして陪審員候補者に最初の質問を行えば,顔の効果による偏見が減るであろう。
レズリー・A・ゼブロウィッツ 羽田節子・中尾ゆかり(訳) (1999). 顔を読む:顔学への招待 大修館書店 pp.295
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