IQ上昇を「空虚」と言いきる前に,因子分析を機能分析で補ってみたい。因子分析から隠れた特性が見つかったところで,それをはたらかせることなど誰にもできない。私たちは日常,話をしたり,計算をしたり,科学や道徳の問題について考えたり,なにかしら帰納的な活動をしているのだ。十種競技にたとえて両分析の違いを見てみよう。十種競技は,100・400・1500メートル走,110メートルハードル,円盤投げ,棒高跳び,やり投げ,走り幅跳び,砲丸投げ,走り高跳びの十種目に挑む。
十種競技の成績を因子分析すると,一般因子gと下位因子——瞬発力(短距離走),跳躍力(幅跳びや高跳び),筋力(投擲種目)など——が導かれる。一般因子gが導かれるのは,同じ時間と場所,つまり同じ条件で競技がおこなわれ,各種目の成績には相関関係があるからだ。すなわち,ある種目に秀でている人は総合でも平均以上の成績をあげる。また,各種目はg負荷量が違うので,優秀な選手でもとびぬけて成績のいい種目もあれば,それほどでもない種目が出てくる。1500メートル走よりも100メートル走のほうがg負荷量ははるかに高いだろう。1500メートル走以外の種目に持久力は必要ないからだ。
ジェームズ・R・フリン 水田賢政(訳) (2015). なぜ人類のIQは上がり続けているのか?人種,性別,老化と知能指数 太田出版 pp.25-26
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