さて,本書の冒頭であげた問いに戻ろう。IQの著しい上昇は,私たちが祖先よりも知能が高いということなのか?「現代の私たちは祖先に比べて考える能力が高いのか」,あるいは「祖先はあまりにも愚かで日常の具体的な世界にも対応できなかったのか」という意味なら,そうではない。「祖先よりも多様な認知的課題を負わされる時代に私たちは生きており,そうしたもろもろの問題に対処できるように,新たな認知能力や脳の領域を進化させてきたのか」という意味なら,そうだ。何が起きているのかが理解できれば,「私たちのほうが知能が高い」と言い張る人とも,「違っているだけだ」と決めつける人とも折り合いをつけられる。何はともあれ,多くの読者は後者の答えを知りたいだろう。だとすれば,私たちは祖先よりも「賢い」と言ってかまわない。だが,「私のほうがより現代的だ」と言ったほうがふさわしいだろう。それはけっして驚くことではない。
ジェームズ・R・フリン 水田賢政(訳) (2015). なぜ人類のIQは上がり続けているのか?人種,性別,老化と知能指数 太田出版 pp.46
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