ひょっとすると,人類の進化の過程で,生殖年齢を過ぎても人が生き延びられるようになったおもな理由は,孫の面倒を見るためかもしれない(そのために「長生き遺伝子」が定着した)。そして孫の面倒には「言語理解」が必要だが,「分析能力」はそう必要ないだろう。だとしたら,メンテナンスの手間をかけないと髙い「分析能力」を維持できないという,高齢者特有の問題を解消しようとする進化圧はほとんどかからないはずだ。さらに,孫の面倒を見ながら自分の人生を顧みないほうが,死の恐怖を感じなくてすむだろう。
環境説と生理説がどのような役割を果たしているかはわからないが,人間の「分析能力」における賢さの負担,つまり賢い人のほうが老化に悩まされるという現象は現実に起きているようだ。それでも賢い人はまちがいなく,人類にとって重要な考え方を次々に生み出し,それは未来へと受け継がれていくのだ。
ジェームズ・R・フリン 水田賢政(訳) (2015). なぜ人類のIQは上がり続けているのか?人種,性別,老化と知能指数 太田出版 pp.139
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