gが重要なのは,それが認知的複雑性の指標だからである。この前提に立てば,IQ上昇がgと相関関係にないことの意味を理解できる。つまりIQ上昇を「より複雑な認知的作業を簡単にこなせるようになってきたか」という意味で考えたとき,人間の知性は時代とともに変わってはいないということだ。
なぜか?語彙の獲得は認知的複雑性の高い作業である。だが,子供たちの言葉づかいを伸ばそうと社会が求めなければ,<単語>下位検査のIQは大して上がらないだろう。分類は語彙を増やすよりも認知的複雑性が低い。しかし生きていくうえで,理解のために物事を分類することが求められるなら,<類似>下位検査のIQは大きく伸びるだろう。そういうわけで,作業の相対的な認知的複雑性(相対的なg負荷量)はIQ上昇とは関係ない。認知的に複雑な作業に取り組む能力の絶対的指標,いわば知能の絶対的指標を見つけることにしか関心がなかったら,そこには目が向かない。そして,IQの上昇とgを関連づけることはできないのだから,「空虚」として無視してしまう(Jensen, 1998)。だがこうした態度は,計量心理学にとりつかれて社会的な意味が見えていない,なによりの証拠だ。
ジェームズ・R・フリン 水田賢政(訳) (2015). なぜ人類のIQは上がり続けているのか?人種,性別,老化と知能指数 太田出版 pp.171
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