知能の研究は,社会学的想像力が欠けているせいで前に進んでいないと思う。どうしたことか心理学者は,自分の研究成果を説明する社会的シナリオを無視することに慣れきっている。そして,社会的側面が抜け落ちた,的はずれな心理学的モデルを好みがちだ。人の知能の心理的側面とその他の側面を統合したうえで,脳生理学を使うべきなのだ。でもここに危険が潜む。往々にして,ふたつを統合するのでなく,還元主義になりかねない。知能の心理的側面を脳の活動へ求めること自体は,価値がある。だが心理学者はそれにとどまらず,人の知能の心理的側面を完全に無視しようとしている。問題を解いているのは人の知性なのに。社会学と心理学を無視して,生理学だけをとり上げる——こんなアプローチをしていたら,知能の研究はますます廃れていくだろう。
ジェームズ・R・フリン 水田賢政(訳) (2015). なぜ人類のIQは上がり続けているのか?人種,性別,老化と知能指数 太田出版 pp.193
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