個別の具体例から,一般法則を導き出す推理法は,アリストテレスによって帰納的推理と呼ばれた。逆に一般から特殊を推理する方法は,演繹的推理という。帰納的推理は人間の認識装置にアプリオリに備わった能力によるもので,悟性による概念処理を経ることなく直感としてわれわれに与えられる。
では人間の帰納的推理能力は,一般法則を予測するのに,通常どれくらいの数の個別事例を必要とするのだろうか。これはなかなか難しい問題だが,一般的には意外なほど少ない個別事例からも法則を推理しようとする傾向がある。
たとえば人に,1・3・5という数列をみせて,第四項を予測させると,小学生でもほとんどが7と答えるだろう。しかし,実際には2・4・6と続いて,さいころの目を表しているかもしれない。しかしわずか3つの数字からも,人間はそこに一定の法則を予感する。
鈴木 直 (2007). 輸入学問の功罪----この翻訳わかりますか? 筑摩書房 p.204-205
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