gという概念のおかげで,デビッド・ウェクスラーは正しい道筋を進んでいたことが裏づけられた。とても喜ばしいことだ。先進国で重んじられる分析的知能の個人差を測るための,現在のところもっとも優れた手段であるウェクスラー知能検査は,gによって理論的な裏づけを得たのだ。アメリカだけが先進国ではない。地球上のほぼすべての国が先進国をめざしている。また,分析的知能の価値がはるかに低い世界でも,gを使えば分析的知能に応じて個人をランキングすることができる。社会経済的地位という概念は,南アメリカ南端部にあるティエラ・デル・フエゴ州の住民にとっては大した意味はないが,社会学者にとってはとても重要だ。それと同じこと。生涯をかけて困難に立ち向かい,gの概念を生み出したアーサー・ジェンセンに,心理学者は感謝しなければならない。ジェンセンは才能にあふれていただけでなく,ときに科学的というより政治的な批判に立ち向かう勇気ももちあわせていた。もし私が学問に大きな貢献を果たしてきたとしたら,それはほぼすべて,ジェンセンが示したたったひとつの問題を踏まえたものでしかない。
ジョン・スチュアート・ミルの本を読んでほしい。ある考え方を封じこんだら,将来そこから生まれるあらゆる議論の芽を摘みとってしまう。人類の思想史を自分の都合で検閲できると思いこんでいる者たちよ,よく耳を傾けるがいい。
ジェームズ・R・フリン 水田賢政(訳) (2015). なぜ人類のIQは上がり続けているのか?人種,性別,老化と知能指数 太田出版 pp.195
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