研究者ロバート・ビクスラーとマイロン・フロイドは,「人々の快適さの範囲は近年狭まってきている」という興味深い仮説を立てて調査を行なった。何百人もの中学生に,自然についてどう感じるかを尋ねた結果,自然に対して恐怖や嫌悪感を持っている生徒は,室内で友人と遊ぶことを好む傾向があることがわかった。大人が無理に戸外へ行かせても,彼らは手入れされた公園の歩道を歩きたがる。さらに中学生たちに,テキサスの西部開拓民になったつもりで1週間キャンプするとしたら,都会の快適さをどのくらい恋しいと思うかを質問した。「なくても気にならない」を0,「それがなければ生きていけないを」4として,点数を集計したところ,風呂やシャワーは平均が3,水洗トイレが2.63,お湯が出る蛇口が2.69,エアコンが2.66だった。質問項目はもちろん,当時の開拓民たちがなくても平気で暮らしていたものばかりだ。私たちは幌馬車で大陸を横断した時代から,安楽椅子に座ってプレイステーションで遊ぶ現代までの間に,着実に軟弱になってきた。今私たちが「快適」と呼ぶ範囲はどんどん狭まってきているのである。
トッド・カシュダン,ロバート=ビスワス・ディーナー 高橋由紀子(訳) ネガティブな感情が成功を呼ぶ 草思社 pp.56-57
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