幸せの予測を誤らせるバイアスは他にもあり,スフレを半分しか食べられないことよりずっと悪い結果につながることもある。一般的な例を挙げれば「インパクト・バイアス」というのがある。これは何かの出来事が感情に与えるインパクトと,その影響が続く時間を課題に見積ることである。たとえば,太陽の降り注ぐハワイで1週間休暇を楽しんだとする。「こんなに素晴らしい場所はない」と感じて,引退後はハワイで過ごそうと考えてしまう。この選択は,明確には意識しないものの,快適な気候,ゆったりした生活ペース,海に近い暮らしなどが「今よりずっと自分を幸福にしてくれる」という推測に基づいている。だが人は常に実際よりも強い感情インパクトを予測しがちである(スポーツにおける勝敗,政治面での勝利,仕事上の成否などに関して行われたさまざまな研究の結果がそれを示している)。また,そのインパクトが,実際よりも長く続くと考える傾向がある。従ってハワイに移住した人の場合も,おそらく一時的に幸福感は上昇するだろう。だが1か月もたてば新しい環境に慣れ,引退前に都会で暮らしていた頃と同じ程度の幸福度に戻ってしまう。
トッド・カシュダン,ロバート=ビスワス・ディーナー 高橋由紀子(訳) ネガティブな感情が成功を呼ぶ 草思社 pp.161
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