コーネル大学のジャック・ゴンガロの研究チームは,グループ内におけるナルシシズムの効用を調べることにした。調査の参加者4人ずつのグループを73チーム作り,困難な問題を抱えた企業のために組織コンサルタントとして働いてもらうと告げた。イノベーティブでしかも実現可能な行動プランを作り出すことが目標である。参加者たちはもちろんプロジェクトを成功させたいと思っているが,それに加えてプレッシャーもある。組織心理学の専門家が2人,各自のアイデアを評価して,もっとも優れた人材を選ぶと言われているからだ。
まず事前に,292人の参加者それぞれの「ナルシシスト的傾向」を評価する。その後,73のチームは数週間かけてプロジェクトに取り組む。そしてプロジェクトが完成した後,各自に「アイデアについてどのように話し合ったか」「決断を下す前にすべての可能な選択肢について考えたか」など,グループダイナミクスについて尋ねた。さらに専門家が,各グループが打ち出した解決策を評価した。その結果,ナルシシスト的リーダーは本質的に好ましくないという一般的な見方に反し,「ナルシシストが少なすぎても多すぎても最適なグループダイナミクスは生まれず,創造性も限られたものになる」ということがわかった。グループ運営面から見ても,生みだされたソリューションの質から見ても,ナルシシストがグループ内に1人ないしゼロの時に比べ,2人いる状況が最適だという結論が出た。
皆さんは,「グループにナルシシストがいるなんて,どこがいいのだろう」と思っているだろう。しかしナルシシストは2人いると特に具合がいい。それはイノベーティブに考えようとする時には,規範やルールが妨げになることが多いからだ。創造的であるためには,「こうでなくてはならない」という思い込みに挑戦する必要がある。ナルシシストは,自分だけは特別だと思っており,壮大な幻想を持っているので,アイデアが世間的に見て適正かどうかということに関心がない。ばかばかしいとか実現不可能だとしてさっさと切り捨てられるようなアイデアが,ナルシシストにとっては格好の獲物となる。マイケル・マコビーは,『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌の中で,人々に議論をやめさせ行動を起こさせる偉大なナルシシストたちの例をたくさん挙げている。
トッド・カシュダン,ロバート=ビスワス・ディーナー 高橋由紀子(訳) ネガティブな感情が成功を呼ぶ 草思社 pp.238-239
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