あくびに関して意欲的で,それについて考え,その方法を学んで自力で練習した人,全国ネットのテレビ番組のために自ら進んで録画されることを望んだ人でさえ,カメラの前に置かれるとあくびが止まってしまった。「おい,何百万人もの人々にあくびをするところを見てほしくはないか?」。自信満々だったボランティアたちは,数分前に廊下で待っていたときにあれほど簡単だったことが本番でこれほど難しくなることに驚いた。あくびの社会的抑制は注視されることによって自然に起きたことで,参加者が無作法あるいは不適切な行動を抑えようと努力した結果ではなかった。社会的に重要なあくびの行動は,無意識なプロセスによって作り出されたり抑制されたりするのだ。
注視されることに対する感受性はあくびや後に取り上げる他の行動に関する一般的な神経行動学的原則を明らかにする。系統発生学的に古いものは新しいものと継ぎ目なく混ざり合うことはない。無意識と意識が脳の表現手段をめぐって競い合うときには,あくびが社会的注視の元に置かれた場合のように,より新しい意識的メカニズムがライバルである古い無意識を抑制するのだ。
ロバート・R・プロヴァイン 赤松眞紀(訳) (2013). あくびはどうして伝染するのか:人間のおかしな行動を科学する 青土社 pp.30-31
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