血液中あるいは脳において二酸化炭素濃度が高くなる,あるいは酸素が欠乏するとあくびが出るという伝統的だが裏付けのない擬似事実は頻繁に繰り返されているうちにやがて一人歩きするようになり,今でも一般メディアや医科大学の講義で取り上げられている。けれど私が20年以上前に行ったこの仮説に関する唯一のテストは,それを完全に否定した。空気中の二酸化炭素の100倍以上の濃度(通常のCO2レベルの0.3パーセントに対して5パーセント濃度のCO2)を呼吸しても,あくびは増加しなかったが,被験者たちの呼吸数と1回換気量(呼吸の深さ)には劇的な増加がみられた。これは気体が重要な生理学的影響をもたらしたことを証明している。さらに,100パーセントの酸素を呼吸してもあくびは抑制されなかった。酸素を減少させる実験は被験者たちに危険をもたらす恐れがあったため行われなかった。
ロバート・R・プロヴァイン 赤松眞紀(訳) (2013). あくびはどうして伝染するのか:人間のおかしな行動を科学する 青土社 pp.43
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