チンパンジーや他の四つ足動物の発声は呼吸と走ることをシンクロする,柔軟性のない神経と筋肉のシステムに支配されている(一歩毎に一呼吸)。いっぱいに満たされた肺は走る時の前肢の衝撃に対して胸部を支えるために必要だ。重い物を持ち上げるときに息を止めるのはそのためだ。膨らませた肺がなければ空気が抜けたエアバッグのようにだらりとしてしまう。日本の足で直立して歩いたり走ったりする二足歩行の進化によって胸部は移動時に支える機能から開放されて,呼吸,走ること,発声の協調に柔軟性が認められるようになった。
これが発話の進化の二足歩行(「ウォーキートーキー」)説の基礎になる。二足歩行を行う人間のランナーは一呼吸あたり様々な歩数で走ることができるが(四対一,三対一,五対二,二対一,三対二,あるいは一対一),二対一が最も一般的だ。発声がもはや移動と親密な関係を持たなくなった声のシステムによって発話の自然選択,そしてついでに私たちの種に特徴的な「ハハハ」という笑いのお膳立てができたのだ。二足歩行を行わないチンパンジーの中でも音声の上で達者なボノボ(ピグミーチンパンジー)ですら発声は流ちょうとはいえず,簡単な叫び声や呼び声だけが可能な発声システムに閉じ込められている。
ロバート・R・プロヴァイン 赤松眞紀(訳) (2013). あくびはどうして伝染するのか:人間のおかしな行動を科学する 青土社 pp.59-60
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