市場の暴落は,理屈で割り切れる世界ではない。見る見るうちに自社の損失が膨らんでいく自体を目の当たりにしてパニックに陥り,恐怖に支配されるのだ。そしてパニックに陥った投資家の投げ売りがさらなる価格下落を招き,そしてその価格下落がパニックをさらに助長する。価格下落とパニックは,お互いがお互いを強めあう強いフィードバックループを形成し,ひとりでに大きくなっていくのである。
類似した行動パターンを持つ特定の投資家群が1つの市場で大きなシェアを占めているとき,そのパニックと暴落はとりわけ大きなものとなる。みなが同じ行動をとろうとし,反対の行動をとろうとする投資家が現れにくいので,いったんパニックが広まるととめどのない暴落につながりやすいからだ。国内の金融機関が支え合う形で保たれている日本の国債市場の安定性は,何らかのきっかけで暴落が起きたときのインパクトの大きさの裏返しとなっているのである。
田渕直也 (2015). だからあなたは損をする 投資と金融にまつわる12の致命的な誤解について ダイヤモンド社 pp.145-146
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