樹木の循環系に関する知識は,一般にはなじみが薄いと見えて,その働きについては,いまだにあいまいな話がまかり通っている。人類が植物に頼っていることを思うと,なんとも馬鹿げた話なのだが……。
教える立場からすると,特に植物と菌類との関係を説明する際,手にとれるものを使って学生たちに話すと効果があるので,植物の幹の説明にはいつも腕の話を持ち出すことにしている。仮定の実験だが,私は「君の腕のひじの上を紐で固く縛ってみろ」と言う。「腕の血管が膨らんできたら,指でそれをなぞってごらん。血液の逆流を防いでいる弁がわかるはずだ。睡眠薬があったら,たっぷり飲んで2,3時間寝込んでもいいが,朝まで紐を緩めないでそのままにしておくと,目が覚めることには,縛った腕先が気持ち悪いほど変色しているはずだ。もし,その止血帯を長い間そのままにしておいたら,腕は壊疽になり,腐って落ちてしまうぞ」と話す。アメリカグリが胴枯病にかかったときも,これとまったく同じ状態に陥るのである。
ニコラス・マネー 小川真(訳) (2008). チョコレートを滅ぼしたカビ・キノコの話:植物病理学入門 築地書館 p.18
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