古くから真清田神社の門前町として栄え,地名も同神社が「尾張国の一之宮」だったことから名づけられた一宮市は,喫茶好きの名古屋市と岐阜市の間に位置する。明治以降は毛織物工業の中心地となり,戦後の高度成長期「糸へんの時代」と呼ばれた昭和30年代には毛織物や繊維業の最盛期を迎えた。「ガチャマン」と呼ばれ,ガチャンと機織りをすると,万というおカネが入ったといわれた時代だ(アパレル産業が盛んで同じ喫茶大国の岐阜市も似たような状況だった)。
この時期一宮で生まれたのが「モーニングサービス」。当時多くの“はたやさん”が,事務所で打ち合わせをしようとしても織機の音がうるさくて,ゆっくり商談ができない。そこで近くの喫茶店を接客に使うようになった。多い時は1日に4〜5回も通う。やがて人の良いマスターが,朝のサービスとして「コーヒーに,ゆで卵とピーナッツをつけたのが始まり」——といわれている。
高井尚之 (2014). カフェと日本人 講談社 pp.116
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