宗教はとりわけ,共同体のメンバーが互いに守るべき道徳規範を示し,社会組織の質を維持する。まだ市民統治機構が発達していなかった初期の社会では,宗教だけが社会を支えていた。宗教は,同じ目的に向けた深い感情的つながりをもたらす儀礼をつうじて,人々を束ね,集団で行動させる。
したがって,単独で存在する教会はない。教会とは,同じ信念を持つ人々が作る特別な集団,つまり共同体である。その信念はありふれた無味乾燥なものの見方ではなく,深い感情的つながりを持つ。象徴的儀礼や,合唱や一斉行動のなかで共通の信条を表現することによって,人々は,自分たちを共同体として束ねている共通の信仰に深くかかわっているという信号を送り合う。宗教(religion)という語が,ラテン語で「束ねる」を意味するreligareからおそらく派生しているのは,この感情的な結びつきのためかもしれない。
ニコラス・ウェイド 依田卓巳(訳) (2011). 宗教を生み出す本能:進化論からみたヒトと信仰 NTT出版 pp.4-5
PR