宗教の定義を求められると,多くの人は人の信仰の個人的な重要性を語る。たとえば,神聖なものとの交流を感じさせ,希望や慰めの源泉,道徳的行為の指針となり,不運の理由を説明し,人生の意味を明らかにしてくれるなど。『宗教的経験の諸相』のなかで,心理学者ウィリアム・ジェイムズは,宗教の個人的な側面を,ほかの何よりも強調する。彼の定義によれば,宗教とは“孤独な状態にある個々の人間が,なんであれ神的な存在と考えるものとの関係を感じる場合だけに生ずる感情,行為,経験である。この関係は,道徳的でも,身体的でも,儀式的でもありうるので,私たちが理解するような宗教から,いろいろな神学や哲学や教会組織が二次的に育ってくることは明らかだ”。
しかし,宗教がどれほど強く個人の信念から生じるように見えても,その実践はきわめて社会的である。人はみな同じ信仰を持つ人とともに祈りたい,と個々人が信じているからだ。ひとりで祈りを捧げることもあるが,宗教活動や儀礼は社会的なものだ。宗教は共同体に属し,そのメンバーの社会的行動,すなわち,互いに対する(内部)行動と,信者でない者に対する(外部)行動に大きな影響を及ぼす。宗教の社会的側面は非常に重要である。他者へのふるまいを司るルールこそが,その社会の道徳だからだ。
ニコラス・ウェイド 依田卓巳(訳) (2011). 宗教を生み出す本能:進化論からみたヒトと信仰 NTT出版 pp.11-12
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