初期の人々のなかで進化しはじめた宗教は,長期にわたって大きな文化的発展をとげ,初期のものとまったく異なる今日の形態へと変わった。この発展の性質は,後述するとおり,大まかなかたちではあるが今日はじめて解明されうる。
その第一段階は,生活様式が大昔から変わっていない現代の狩猟採集社会から,初期宗教の一般的形態を推測することだ。対象となる社会は,遺伝子(これによって社会の孤立の度合いがわかる)を基準にして選べる。次に,考古学の助けを借りて,狩猟採集民の宗教が定住社会の宗教に発展した段階をたどる。狩猟採集民の宗教は,神と交流する際,共同体の全員を平等に参加させた。定住社会では,聖職者階級が人々と神のあいだに立つようになった。宗教の力は独占的となり,しばしば祭司の王が支配する古代国家の支柱となった。人々を束ねる宗教の力は,集団行動が必要なほかの仕事にも利用された。たとえば,共同体としては初めて農業を取り入れたときの,慣れない厳しい仕事などだ。そうした宗教のおもな儀礼は,農業暦と結びつき,そのさまざまな行事は,進歩した国家のなかに現れた高度な宗教に吸収された。
そのような国家のひとつ,紀元前2000年代に近東に住んでいたカナン人と,その子孫の古代イスラエル人の国家から,最初の巨大な一神教が出現した。いまや研究者は,ユダヤ教が生まれた歴史的背景と,作り上げた人々の動機を,ある程度くわしく説明することができる。
ニコラス・ウェイド 依田卓巳(訳) (2011). 宗教を生み出す本能:進化論からみたヒトと信仰 NTT出版 pp.19-20
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