宗教行動は人間性の進化した部分と考えるおもな根拠は,宗教の普遍性にある。あらゆる社会になんらかの宗教がある。世界じゅうに存在する宗教は,文化によって大きく異なるとはいえ,共通点も多い。宗教行動が持つそういったほぼ不変の特色には,遺伝的基盤があると考えられる。
すべての宗教の中心には儀礼があり,儀礼は音楽をともなう。原始社会ではよく舞踏も含まれるが,多くの定住社会の宗教に舞踏はない。
すべての社会は通過儀礼をおこなう——誕生,成長,結婚,そして葬送の儀礼だ。そこで演奏される音楽は躍動的なものが多い。ドラムやリズムカルなビートは,神秘の世界と交流するための方法と広く考えられているからだ。思春期におこなわれる通過儀礼は多くの場合,痛みと恐怖をともなう。それによって未来の戦士の心に勇気と忠誠を芽生えさせるのだ。
たとえ神が別の世界に住んでいるとしても,すべての宗教には神と接触するなんらかの方法がある。また,儀礼や供養や祈りによって神の行動に影響を与える方法もある——たとえ取るに足りない人間の心配事に,永遠なる存在がほとんど関心を持たないとしても。
ニコラス・ウェイド 依田卓巳(訳) (2011). 宗教を生み出す本能:進化論からみたヒトと信仰 NTT出版 pp.47
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