複数の分野の研究者たちによれば,協力しない者は厳しく罰せられるという想定がなければ,これほどレベルの高い自然な協力関係は生まれなかった。
しかし問題は,誰が罰を与えるかだ。小さな社会では,法の執行役を引き受ける者はまわりの敵意を買う。犯罪者やその親族からの復讐がありうることは言うまでもない。狩猟採集社会は逸脱者の懲罰に慎重である。たいてい事前に全員の同意を得,復讐を避けるためになるべく血縁者に殺させる。
進化心理学者のドミニク・ジョンソンは,最近の一連の論文のなかで,どの共同体にも,超自然界の代理者という形式の,非常に効果的な懲罰システムがあると指摘している。世界じゅうの社会で,神や祖先の霊は人々が法やタブーを守っているかどうかを注視しているとされる。現世,来世,またはその両方で,神はかならず違反者を罰する。先進社会においても宗教は厳格だ。ヘブライ書(訳注——旧約聖書)は,罪は罰されると明示している。キリスト教は,神の法にしたがえば天国に行ける,したがわなければ永遠の地獄が待っていると約束する。ヒンドゥー教と仏教では,人として恥ずべきおこないをした者は,下等な生物に生まれ変わる。
超自然の懲罰システムは,原始社会に多大な利益をもたらした。懲罰というありがたくない仕事を誰も引き受ける必要がなくなり,逸脱者やその親族から殺される危険を背負わなくてすんだ。代わりに神が念入りにこの仕事をするようになったのだ。
ニコラス・ウェイド 依田卓巳(訳) (2011). 宗教を生み出す本能:進化論からみたヒトと信仰 NTT出版 pp.62-63
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