人類が言語と他人の噂話をする能力を発達させた時期,信仰はとりわけ有益になったかもしれない。小さな社会で悪い評判が立つのはよくない。何かの技術に秀でることさえ,妬みの原因になりうるし,妖術師とみなされて処刑されるかもしれない。神の明らかな望みに几帳面にしたがい,慎重に行動した人たちは,より多くの子孫を残せただろう。このため,自然淘汰は宗教行動に有利に働いた,とジョンソンは推察する。ジョンソンと心理学者のジェシー・バーリングは次のように書いている。“われわれは万人に共通する宗教の雛形を受け継いできた。というのも,初期の人類において,超自然界の代理者がいるという考えを捨てたり,道徳的なことがらにかかわる能力のなかった者は,同じ集団のメンバーによって早々に殺されるか,少なくとも子孫を残す可能性を減らしただろうからだ。他方,道徳を説く神がいる可能性に同意し,そのような代理者を恐れて生きた者は,生き延びてわれわれの祖先になった”。
ニコラス・ウェイド 依田卓巳(訳) (2011). 宗教を生み出す本能:進化論からみたヒトと信仰 NTT出版 pp.64-65
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