前述したとおり,もし言語が儀礼の質を高める力を持ちながら,じつのところ必要不可欠ではないとすれば,言語はおそらく宗教の土台となるもろもろの行動のあとから加わったのだ。とすると,言語が発生した背景には儀礼があったのではないだろうか。これは興味深い可能性だ。言語は強力なので,もし早くから進化していたら,まちがいなく宗教行動を支配していたはずである。言語が宗教行動にとって必要不可欠な要素でないということは,そこにあとから来たことを示唆している。したがって,仮にではあるが次のような発生の順番が考えられる。(1)舞踏,(2)音楽,(3)儀礼に基づく原宗教,(4)言語,(5)超自然的存在への共通の信仰にもとづく宗教。この一連のプロセスにおいて,それぞれの進化の開始と完了が広く重なり合っていたことは疑いない。
ニコラス・ウェイド 依田卓巳(訳) (2011). 宗教を生み出す本能:進化論からみたヒトと信仰 NTT出版 pp.101
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