アボリジニ,アンダマン諸島民,クン・サン族,これら3つの民族は,おそらく初期人類の宗教にかぎりなく近いものを実践しているだろう。いずれもほかの文化の影響を受けてしまっているかもしれないが,それらの共通の特徴は,同じ起源に由来すると考えてよさそうだ——5万年以上前,現生人類がアフリカを出るまでその地で実践していた宗教である。
人類学者たちの記述を見ると,その3つの狩猟採集民の宗教が,西洋諸国でなじみのある宗教と大きく異なっていることがわかる。未開の宗教には司祭もいなければ聖職者の階層制度もない。共同体のメンバー全員が宗教を実践し,人々のあいだに序列はない。教会のような独立組織もない——共同体そのものが教会なのだ。
彼らの宗教の第2の特徴は,前章で述べたように,歌や舞踏をともなうリズミカルな身体運動だ。そうした歌や舞踏は8時間以上続くこともある。全員が同じリズムに合わせて踊るこの「舞踏マラソン」によって強い感情が生まれ,人々はみな喜びとともに一体感を味わう。この儀礼の重点は,個人の精神的な満足ではなく,共同体の活動と要求にある。
第3の特徴として,原始宗教の聖なる物語は,共同体の存続にかかわる道徳や実用的な教えを説く(西洋の宗教と同様)。しかし,その物語は宗教実践の中心ではなく,儀礼や儀式と一体になっている。
第4に,原始宗教は神学の問題にほとんど関心を示さず,実用的な問題を重視する。たとえば通過儀礼や,治療,狩猟,天候のコントロールといった生存にかかわる問題などだ。もうひとつの実用的な目的は,互いに争って反目する者たちをなだめ,関係を修復させることである。これは集団の結束を維持するためにもっとも重要だ。
ニコラス・ウェイド 依田卓巳(訳) (2011). 宗教を生み出す本能:進化論からみたヒトと信仰 NTT出版 pp.114-115
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