骨相学は,人格特性と脳の解剖学的特徴を結びつけるための体系としては,ものの見事に破綻したが,特定の種類の心的現象は脳の中で局在化しているという,その根底を成す概念はおおむね正しく,今日の重要な臨床慣行には,この概念に基づくものもいくつかある。手術前の計画立案のときに,脳外科医がfMRIを使って脳のマッピングをし,言語領域と運動領域の位置を突き止め,そうした機能的に重要な領域に与える損傷を最小限に食い止めつつ,腫瘍や血栓,癲癇性の組織を取り除くようにするのが,しだいに一般的になってきている。脳のマッピングは,深刻な慢性の鬱や強迫性障害の患者の脳で,異常な活動の中心箇所を正確に突き止め,治療用電極を最も望ましい位置に挿入して,その箇所を刺激する,「脳深部刺激」と呼ばれる技術を使ううえでも重宝している。さらに,脳卒中による損傷を確認したり,アルツハイマー病や癲癇の経過を追ったり,脳の成熟度を測定したりするのにも使われる。科学者は,fMRIによって医師が意識のレベルを直接測定できるようになり,昏睡状態の患者の治療が進歩することを期待している。
サリー・サテル スコット・O・リリエンフェルド 柴田裕之(訳) (2015). その<脳科学>にご用心:脳画像で心はわかるのか 紀伊國屋書店 pp.42-43
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