この誤りに,脳画像法のプロセス自体ではなく,統計的な誤差が加わる。研究者がBOLDの信号を,同時に膨大な数の統計的試験にかけると,試験のいくつかは,単なる偶然のせいで「統計的に有意」となるのが必定だ。言い換えると,そうした試験結果は,被験者が課題に取り組んでいるとき,実際には必要とされなかった脳の領域が活発になる,と誤って示唆してしまう。この点を劇的に示すために,脳科学者のクレイグ・ベネットは,脳スキャン画像が胡散臭い結果を生み出しうることを実証することにした。ベネットと彼の率いるチームは,鮮魚店で死んだサケを買い,この協力的な被験者を脳スキャナーに入れ,さまざまな社会的状況にある人々の写真を「見せ」,彼らが何を感じているか想像するように「頼んだ」。すると,ベネットのチームは,探し求めていたものを見つけた。その死んでいるサケの脳の小さな領域が,この課題に反応してぱっと輝いたのだ。この脳の小領域の活性化は,もちろん統計的な作り物だった。ベネットと仲間の研究者たちは,意図的にやたらに多くの「引き算」を行ったので,結果のいくつかが,まったくのでっち上げであるのにもかかわらず,ただの偶然のせいで,統計的に有意になったのだった。2012年度のイグノーベル賞(「まず人々を笑わせ,それから考えさせる」研究のための賞)を受賞したこの「サケ研究」は,データ分析における決定がfMRIの結果の信頼性に影響を及ぼしうることを例証してくれる。
サリー・サテル スコット・O・リリエンフェルド 柴田裕之(訳) (2015). その<脳科学>にご用心:脳画像で心はわかるのか 紀伊國屋書店 pp.53-54
PR