司法の場で骨相学の影響が弱まり始めたころに,イタリア人医師チェーザレ・ロンブローゾが,凶悪な犯罪は引き起こされるのであって,自由意志で選ばれるのではないという考えを提唱した。彼は連続強姦殺人犯を検死解剖したとき,頭蓋骨の内側,後方の正中部の,小脳があったと思われる箇所に異常な陥没があることを発見した。この窪みは「下等な類人猿や,齧歯類,鳥類」に見られるものと似ているとロンブローゾは記している。1876年にロンブローゾは『犯罪人論(Criminal Man)』を出版し,その中で,生涯にわたって暴力的な犯罪者には未開人への先祖返りが起こっているという考えを示した。「理論倫理学には,こうした病的な脳は素通りしてしまう。大理石の上にこぼれた油が染み込まずにそのまま流れていくのと同じように」と書いている。こうした生来の犯罪者は万人の安全のために永久に隔離される必要があるのに対して,生物学的により進化している他の犯罪者は教育して更生させるべきだと彼は言う。
サリー・サテル スコット・O・リリエンフェルド 柴田裕之(訳) (2015). その<脳科学>にご用心:脳画像で心はわかるのか 紀伊國屋書店 pp.169-170
PR