通常の意味における責任能力は,一般に人が直観的に捉える道徳的行為者の意味内容に合致するように思われる。心理学者のロイ・F・バウマイスターとその共同研究者たちは,行動に自制心や理性的な選択,計画性,自発性の行使が認められるときに,被験者がその行為を「自由」だと判断することを突き止めた。つまり,普通の人にとって,「自由意志」とは理性によって導かれ,複雑な状況を見極め,道徳判断に従う能力を伴うものであることがわかる。さらに,さまざまな事象はそれに先立つ事象に起因するという見解を受け容れていた(そのため,仮想の加害者の責任を追求する傾向の弱かった)被験者も,加害者が怒りの感情を掻き立てるような凶悪犯罪を行なう筋書きをそのあとに示されると,その責任を認める率が高まることが,多くの研究チームによって確認されている。ようするに,人間は行動の決定権を欠くが責任を負うとの見解に,一般の人が与するということが,これらのデータから窺われる。
サリー・サテル スコット・O・リリエンフェルド 柴田裕之(訳) (2015). その<脳科学>にご用心:脳画像で心はわかるのか 紀伊國屋書店 pp.202-203
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