自己調節が利かなくなること,信頼関係が損なわれること,社会的な愚かしさに由来するランダムな行為,貪欲,裏切り,さらには殺人でさえ,いつの世にもあったし,これからもなくなることはないだろう。それにもかかわらず,無数の複雑なつながりの推移を把握し続けることのできる,より大きな脳は,そのつながりを維持することで孤独感の痛みを避けようとする基本的衝動と相まって,生存上の優位性を与え続けたので,向社会的な特徴は,一握りの例外を除いたすべての人にとって,いわば「標準仕様」と化した。孤独感への嫌悪と他者への愛着がほぼ普遍的な,いわゆる「環境的に安定した適応」となるにつれ,より多くの者が協調,忠誠,社会的な協力,思いやり,気遣いに依存するに至り,それによって,少なくとも仲間内では,こうしたルールに従って振る舞うことがさらに優位性を増した。その分,仲間外れにされるという感覚はいっそう恐ろしく,有害なものとなった。
そんなわけで,最初の社会が形成されてから何万年もの時を経た今も,人間は血縁,友情,さらにありとあらゆる種類の部族集団(パラグアイの首狩り集団アチェ族から,ボストン・レッドソックスのファン,オンラインゲーム・プレイヤー,スタートレックのファン,英国国教会の信徒など)によって結びつけられている。そして,誰もがたまには独りになる瞬間を大切にするだろうし,この上なく幸せな孤独をかなり長い時間楽しめる人も多いとはいえ,何百万もの集団に属する何十億という人の中には,気分を落ち込ませる有害な孤独感の痛みを味わいたいと望む者は誰一人としていない。
ジョン・T・カシオッポ&ウィリアム・パトリック 柴田裕之(訳) (2010). 孤独の科学:人はなぜ寂しくなるのか 河出書房新社 pp.93-94
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