孤独な人が健康に良い行動をしなくなるのは,催眠で社会的疎外感を抱かせた人にみられた,実行制御機能の,ひいては自己調節能力の低下が一因になっているのかもしれない。たんにその時点で気持ち良く思えることではなく,自分にとって良いことをするには,規律正しい自己調節が必要となる。ジョギングに行くのは,終えたときに気持ちが良いかもしれないが,ほとんどの人にとっては,そもそもドアから外に出るには意志の力による行動が必要だ。そうした規律に必要な実行制御は孤独感によって低下する。孤独感には自己評価を低下させる傾向もある。他者に無価値だと思われていると感じると,自己破壊的行動をしがちで,自分の体をあまり大事にしなくなる。
そのうえ,孤独な中高年の人は,孤独感についての苦悩と実行機能の衰えが相まって,気持ちを紛らわそうとして喫煙や飲酒や過食,性的行動に走ることがあるようだ。気分を高揚させるには運動のほうがはるかに良いだろうが,規律正しい運動にも実行制御が必要だ。週に三回ジムやヨガ教室に通うのも,体調を保とうとするのを励ましてくれる友人とそこで会って楽しめるなら,ずっと楽になるだろう。
つまり,社会的環境は非常に重要なのだ。それは,規範を形作り,社会的制御のパターンを強め,特定の行動をする機会を与えたり与えなかったり,ストレスを生んだり軽減したりすることによって,行動に影響を与える。
ジョン・T・カシオッポ&ウィリアム・パトリック 柴田裕之(訳) (2010). 孤独の科学:人はなぜ寂しくなるのか 河出書房新社 pp.137-138
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