進化心理学の創始者の一人,ロバート・トリヴァーズは,教えることと型にはめることを区別している。前者は子供のためになり,後者は親のためになるものだ。遊び場やデパートの試着室を一瞥すればたいてい,子どもをせっついたり脅したりして,高圧的に指図している親の姿が目に入る。家庭では母親が,自分が休憩をとるために赤ん坊のスーザンを毎日3時に昼寝するよう「型にはめ」ようとするかもしれない。あるいは父親が息子のチャーリーを,役立たずのラルフおじさんのようなサックス奏者でなく,自分と同じ眼科医になるよう「型にはめ」ようとするかもしれない。
孤独な子どもは,この手の圧力に立ち向かって自分の利益を守る能力が人並み以下の場合がある。孤独に感じていると多数派の意見を入れる傾向が強まり,せっせと他人の真似をし,あまり粘り強さを見せなくなる。また,人生のどんなときにもそうであるように,孤独なときにも愛情を必要とするが,この欲求が強すぎて,意に反するようなことまでしてしまう場合もある。
ジョン・T・カシオッポ&ウィリアム・パトリック 柴田裕之(訳) (2010). 孤独の科学:人はなぜ寂しくなるのか 河出書房新社 pp.237
PR