新しいデータは人間の世界観を根底からくつがえす力を持っている。私たちは一定のレンズを通して世界を見ると,必ずその尺度で現実をとらえる理論を築き上げてしまう。私たちの先祖は,夜空に輝く光の点を見て,光の点が複雑な球体の表面上を回っていると考えた。望遠鏡が発明されると,実際には見た目より大きな光の点があることや,その周囲を回る天体すらあることがわかった。すると,現実のモデルを見直せざるをえなくなった。
新しい観測手法は,科学のあらゆる分野に大きな変化をもたらしてきた。たとえば,望遠鏡は天文学の研究に革命をもたらし,顕微鏡は生物学や化学の研究に革命をもたらした。しかし,社会学にはこの種の革命は起きていない。研究者たちは,いまだにペンと紙のアンケート,人間による観察,サクラを使った実験を用いて,社会の無数の現象を解明しようとしているのだ。
ベン・ウェイバー 千葉敏生(訳) (2014). 職場の人間科学:ビッグデータで考える「理想の働き方」 早川書房 pp.24
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