ゴダードはいくつかの研究で,魯鈍の脅威を明るみに出した。もし精神薄弱の祖先が子どもをもつことを禁じられていたならば,決して存在することのない,国家や共同体にとって足手まといの沢山の無用な人々の家系を公表したのである。ゴダードはニュージャージー州の「松林の荒地」に住みついた一群の貧困者と浮浪者を見つけ出し,彼らの祖先を追跡した。そして高潔な男性と精神薄弱と思われる旅館の娘と姦通にまでその祖先を辿ることができた。のちにこの同じ男性は,クエーカー教徒の名士の女性と結婚し,全く善良な市民である別の家系の出発点ともなった。祖先が善良な家系と劣悪な家系の両方の出発点となったので,ゴダードはギリシャ語の美kallosと悪kakosを合成し,その男性にマーティン・カリカック Kallikak という仮の名を与えた。ゴダードのこのカリカック家族は数十年にわたる優生学運動の最初の神話としての役目を果たすことになる。
スティーヴン・J・グールド 鈴木善次・森脇靖子(訳) (2008). 人間の測りまちがい:差別の科学史 上 河出書房新社 p.317
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