私が知っている反知性主義の指導者にはつぎのような人びとがいる。福音主義の聖職者——その多くは高い知性をもち,なかには学者もいた。自分の神学を明確に説明できる原理主義者,きわめて洞察力に富んだ人物をふくむ政治家。実業家や,アメリカ文化の日常的な要請についてのスポークスマン。知的な主張と確信にみちた右翼の編集者。さまざまな作家のはしくれ(ビート族の反知性主義をみよ)。反共主義者の識者——知識人社会の大部分がいだいていた過去の異端思想に怒っている。そして共産主義の指導者もいた。彼らは知識人を利用できるときだけ利用するが,知識人の関心事をことさら軽蔑している。これらの人びとにきわめて顕著な敵意は,もろもろの思想自体にも,知識人自体にも向けられてはいない。反知性主義のスポークスマンはほとんどつねに,なんらかの思想に傾倒しており,同時代人のなかで陽があたっている知識人を憎むのとおなじぐらい,とうの昔に死んだ知識人に——アダム・スミスや,トマス・アクィナス,ジャン・カルヴァン,さらにカール・マルクスにさえ——傾倒しているのである。
リチャード・ホフスタッター 田村哲夫(訳) (2003). アメリカの反知性主義 みすず書房 pp.19
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