バキリタは,1960年代前半,ドイツにいるときに,局在論に疑問をいだくようになった。当時,彼は研究チームの一員として,ネコの脳の視覚野(視覚皮質ともいう)から発せられる電気を電極で計測していた。当然ながら,ネコにある像を見せれば,視覚野の電極が反応して,その像を処理していることを示すと推測された。実際,これは推測どおりだった。だが,偶然ネコの脚に触れたときにも,同じ視覚野から電気が計測された。つまり,触覚もそこで処理されているのだ。さらに,音が聞こえたときにも,視覚野が活発になることがわかった。
バキリタは,局在論者たちの「ひとつの機能,ひとつの場所」は正しいはずがないと考えはじめた。ネコの脳の「視覚野」は,少なくともべつのふたつの情報,触覚と音を処理した。脳の大部分は「複数の種類の知覚をする」----つまり感覚野は,ふたつ以上の信号を処理できると考えるほうが自然だった。
ノーマン・ドイジ 竹迫仁子(訳) (2008). 脳は奇跡を起こす 講談社インターナショナル Pp.31-32
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