もっともしばしば攻撃の的になったスティーヴンソンの資質は,知性ではなくウィットだった。この国においては,ウィットで人気を博した政治指導者はだれもいなかった。大衆は,ユーモアならそれを楽しみ受容する——リンカン,セオドア・ローズヴェルト,フランクリン・D・ローズヴェルトはうまくそれをつかった。ユーモアは土俗性があり,たいていごく単純で親しみやすい。ところが,ウィットは知的に磨かれたユーモアである。ユーモアよりも鋭く,品位や洗練と結びついているため貴族趣味が強く感じられるものである。何度となくスティーヴンソンは「喜劇役者」「道化」と呼ばれ,漫画には道化の帽子と鈴をつけた道化師として描かれた。朝鮮戦争のために人びとの心は暗鬱で,怒りに包まれ,欲求不満に陥っていた。スティーヴンソンのウィットは,彼の中傷者には時をわきまえないもののように思えたのだ。それに比べ,鈍重だが生真面目なアイゼンハワーの発言のほうが時代に即しているように思えた。
リチャード・ホフスタッター 田村哲夫(訳) (2003). アメリカの反知性主義 みすず書房 pp.197-198
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