脳マップは,体の各部位に対応するように秩序だって編成されている。たとえば,わたしたちの中指は,人さし指と薬指の中間に位置している。これは脳マップも同様である。中指の脳マップは,人さし指のマップと薬指のマップの中間に位置するのだ。規則正しく配列されているほうが機能的だ。よくいっしょに働く脳の部分が,脳マップ上で近接していれば,信号も脳内ではるばる遠くまで送られずにすむ。
マーゼニックが疑問に思っていたのは,この秩序がどのようにして脳マップに生じるのか,ということだった。マーゼニックたちは,この疑問に対する独創的な答えを見つけている。体の位置に相対して規則正しい脳マップになるのは,日常の動きが,決まった順序でくり返し行われるからだというのだ。リンゴや野球のボールほどの大きさのものを拾いあげるとき,たいていの人はまず親指と人さし指でつかむ。それから,残りの指が1本ずつ順にそれを包むように閉じる。親指と人さし指は,同時に触れることが多いために,脳に信号を送るのもほぼ同時。それで,親指のマップと人さし指のマップは,脳内の近い位置に形成されやすくなる(いっしょに発火するニューロンは,いっしょにつながる)。つぎに物に触れるのは中指だ。だから,中指の脳マップが,親指,人さし指に続いて形成される傾向がある。物をつかむというごく一般的な一連の行為(親指が最初に触れ,つぎが人さし指,中指が三番め)は何千回もくり返されるため,脳マップにもそう反映される。別々の時間に到達する信号は,離れた脳マップを形成する。たとえば親指と小指は,これにあてはまる。別個に発火するニューロンは,別個につながるからだ。
すべてではないが,多くの脳マップは,時間的に近いもの同士が空間的にグループ化されている。すでに見てきたように,聴覚マップはピアノのようになっている。低い音が片方の端に,そして高い音がもう片方の端,という具合だ。どうしてこんなに秩序だっているのか不思議に思うだろう。低い周波数の音は,もともといっしょに聞こえてくる傾向がある。低い声の人の話を聞くときには,その周波数がほとんど低い。だから,低い音がグループ化されるのである。
ノーマン・ドイジ 竹迫仁子(訳) (2008). 脳は奇跡を起こす 講談社インターナショナル Pp.92-93.
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