締めくくりに,勤勉性とは単にまじめで,熱心,一生懸命という特性にとどまるとみたら失敗するだろう。勤勉な生き方とは,創造性の基盤,成長の源であるという現実である。芸術でも科学でも産業でも,NHK『プロジェクトX——挑戦者たち』でみたように,創造的営為の背後には,必ずといっていいほど地道な勤勉性が潜んでいる。これは人々の常識になっている。この日本列島において,多様な文化が創造され,今日のように発展してきたのも,人々の間にまじめに努力するという勤勉な資質の裏づけがあったからにほかならない。
世界の人々と交わる中で,われわれは勤勉に生きる意味を自然体で伝えることができるだろう。内外の人々は,シュリーマンのように,日本人の普段の生き方,働き方に実地に触れることによって,勤勉性というわが国の土着思想に深い関心を向けはじめるのではないだろうか。迂遠なようだが,それがグローバルな国際社会に寄与できる道なのかもしれない。その意味ではミッションであろう。
梶田正巳 (2015). 日本人と雑草:勤勉性を育む心理と文化 新曜社 pp.187
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