自炊代行業者に対する業界の危機感は,出版物に密かな変化をもたらした。2010年以後,書籍の奥付に次のような但し書きが目立つようになったのだ。
「本書を代行業者等の第三者に依頼してスキャンやデジタル化することは,たとえ個人や家庭内の利用でも著作権法違反です」
「私的利用以外のいかなる電子的複製行為も一切認められていません」
「代行業者等の第三者による電子データ化及び電子書籍化はいかなる場合も認められておりません」
やれやれ。右記の文章が奥付に記されている書籍の版元は,いずれも僕が取引をしている会社である。自炊代行業者にスキャンを依頼することが回り回って出版社の耳に入り,心証を損ねる可能性はある。最悪の場合,得意先を失うかもしれない。
ではどうすればよいのか。床が抜ける可能性を残したまま部屋に置いておくか,大量の書籍を廃品回収に出したり,売ったりするのか。出版社に嫌われるのを覚悟して自炊代行業者へ依頼するのか——。
西牟田靖 (2015). 本で床は抜けるのか 本の雑誌社 pp.109
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