神経調整物質は,神経伝達物質とは異なる。神経伝達物質は,ニューロンを興奮させたり,抑制させるために,シナプスに放出される。だが,神経調整物質は,シナプスの結合全体の有効性を促進させたり減少させたりして,持続する変化をもたらす。フリーマンの説では,恋に落ちると,脳の神経調整物質であるオキシトシンが放出され,現存するニューロンの結合を溶かして,その後の大規模な変化が起こるようにする。
オキシトシンは,絆の神経調整物質と呼ばれることもある。哺乳類の絆を深めるからだ。恋人同士が結ばれて,愛を交わすときに分泌される(人間では,性行為でオーガズムを得ているときには男女に分泌される)。そしてカップルが親となり,子どもをはぐくんでいるときにも分泌される。女性の場合は,分娩時と母乳をあたえるときに放出されている。またfMRIでスキャンすると,母親が子どもの写真を見ているときには,オキシトシンの豊富な場所が活発になっている。哺乳類のオスが父親になると,オキシトシンと密接に関係する神経伝達物質,バソプレシンが放出される。親になるのは責任重大で,自分には到底できないと思っている若者は,オキシトシンがどんなに脳を変化させるのかわかっていないのだ。そのときがくれば,状況に対処できるものなのである。
ノーマン・ドイジ 竹迫仁子(訳) (2008). 脳は奇跡を起こす 講談社インターナショナル Pp.148-149.
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