リンゲルマンの巧みな実験とは,グランジュアン農業大学の学生20人に長さ5メートルの綱を引っ張らせ,綱の反対の端には歪みゲージを取付けておくというものだった。この装置によって,人の怠けたがる傾向が明確な数値で確認された。2人で同時に綱を引いたときには2人とも,その前にそれぞれが1人で綱を引いたときに比べ,平均93パーセントの力しか出さなかった。3人で引いたときにはこの数字は85パーセントに,4人のときには77パーセントに下がった。怠惰の指標となるこの数字はさらにその後も下がり続け,8人の集団になると,1人ひとりは平均すると最大能力の50パーセントしか発揮しなかった。現代の心理学者は,人の本質に潜むこのずるい傾向をリンゲルマン効果とよび,次のように説明している。集団で行う作業では,個人のしたことが全体の成果にそれほど強く影響しないため,個人として最善を尽くそうという意欲が失われる。さらに,個人の貢献が団体の努力のなかでは隠れてしまうため,人をあてにする気分が強まる。
レト・∪・シュナイダー 石浦章一・宮下悦子(訳) (2015). 狂気の科学:真面目な科学者たちの奇態な実験 東京化学同人 pp.28
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