タウブは,新しい神経科学を築きあげようとしていた。行動主義の理論を生かしつつその偏りがちなところをなくし,それに脳科学を足したような学問だ。実はイワン・パブロフもこうした融合を予期していた。パブロフは,いわずと知れた行動主義の創始者だが,後年,自分の発見を脳科学に組み込もうとしていたことはあまり知られていない。彼は,脳が可塑的であることにも言及している。皮肉なことだが,タウブが脳に可塑性があるという重要な発見ができたのは,行動主義のおかげでもあった。行動主義者たちは脳の構造に全くというほど関心を払わなかったが,ほかのほとんどの神経科学者たちのように,脳に可塑性がないと決めつけることもなかったのだ。多くの行動主義者は,動物は訓練すれば,なんでもできるようになると考えていた。「神経」可塑性について取りあげることはなかったが,行動の可塑性は信じていた。
ノーマン・ドイジ 竹迫仁子(訳) (2008). 脳は奇跡を起こす 講談社インターナショナル p.169
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