実は「スキナー箱」という名はスキナーがつけたわけではなかったが,この名はすぐに世間に広まった。彼が次女のデボラをスキナー箱に入れて育てたという話まで出て,やがて,「デボラは最後には精神科の施設に入り,自ら命を絶った」という噂が広がり始めた。この都市伝説のもとになったのは,女性誌『レディース・ホーム・ジャーナル』の1945年10月号に載った記事だった。スキナーがデボラのためにつくった暖房付きの防音保育器に関する記事で,運の悪いことに「箱入り娘」という題がつけられていた。これが読者に,デボラもスキナー箱に入れられ,ラットやハトと同じように父親の実験の対象にされていたのだという誤った印象を与えたのである。現在,デボラはロンドンでアーティストとして活動しながら,「彼女は自殺した」というしつこい噂に終止符を打とうと,ときどきマスコミに登場している。
レト・∪・シュナイダー 石浦章一・宮下悦子(訳) (2015). 狂気の科学:真面目な科学者たちの奇態な実験 東京化学同人 pp.86
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