数少ない証人の一人が,ミルグラムの研究助手で,現在はカリフォルニア大学の心理学教授をしているアラン・エルムスである。彼があの実験にかかわったということを知ると,未だに多くの人たちが,強い興味と強い嫌悪感の入り混じった複雑な反応を示すと,彼は語っている。
人間自体にまつわる不都合な真実を暴いてしまったことで,ミルグラムは高い代償を払う羽目になった。ハーバード大学で彼はその後助教になったが,長くとどまることはできなかった。1967年にはかるかに格下のニューヨーク市立大学へと移り,そのまま1984年に心不全のため51歳で亡くなった。死の直前,孫が生まれた。孫のセカンドネームはスタンレーだと語った彼の妻に,記者がなぜファーストネームにしなかったのかを尋ねると,彼女はこう答えた。「スタンレー・ミルグラムという名前は,人生を送るのに重荷になるだろうと思いますから」
レト・∪・シュナイダー 石浦章一・宮下悦子(訳) (2015). 狂気の科学:真面目な科学者たちの奇態な実験 東京化学同人 pp.160-161
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