そのため,ミルグラムの得た仲介数5.5という数字が正しいかどうかは,今でもはっきりしない。彼はこの実験結果を,ふつうの方法,つまり学術雑誌ではなくて,大衆科学雑誌『現代心理学(Psychology Today)』で発表した。この記事のデータは大ざっぱで,検証可能な確実なものとはいいがたい。たとえばミルグラムは,わずか2人を介してケンブリッジの女性まで手紙が到達したカンサスの農場主の成功例をあげているが,この実験のもっと詳しい情報は,未発表の保存資料の形でしか見当たらない。カンサスの参加者へと依頼した書類入れ60通のうち,ゴールへと届いたのはわずか3通だけで,しかもその例では平均して8人を介していたことが判明している。ミルグラム(1984年に亡くなった)はのちの実験で5.5という数字を出しているが,これらの実験では,社会的ネットワークを広くもつ参加者を意図的に選ぶことが多かった。
レト・∪・シュナイダー 石浦章一・宮下悦子(訳) (2015). 狂気の科学:真面目な科学者たちの奇態な実験 東京化学同人 pp.179
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