さて結果は驚くべきものだった。ある人が進んで人を助けるかどうかに影響する唯一の要因は,どれほど急いでいるかだったのである。ゆっくり時間がある被験者が助けの手を差し伸べる確率は,急いでいる被験者に比べ,6倍にもなった。人々の個人的な信条はそれほどはっきり結果に影響しなかったが,「助けようとしすぎる人」には独断的な神学生が目立って多いのは確かだった。しかし,最も驚くべき結果はもう一つの問題についてだった。人々が他者を助けるかどうかは,そのときに彼らがあの良きサマリア人のたとえについて考えていたか(それともいなかったか)には,全く何の関係もなかったのである。実際に被験者の何人かは,被害者のそばを平然と通り過ぎていった先で,祭司とレビ人の非人間的なふるまいについて話をしたのだった。
レト・∪・シュナイダー 石浦章一・宮下悦子(訳) (2015). 狂気の科学:真面目な科学者たちの奇態な実験 東京化学同人 pp.204
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