ベアの発見は特に目新しいものではなかった。ロナルド・シャーマンとエドワード・ペクターは,メキシコとグァテマラの古代マヤ人やオーストラリア,ニューサウスウェールズ州のゲンバ族,そしてビルマ(現ミャンマー)の丘陵民族がウジ療法を行っていたとしている。1829年,ナポレオン軍の軍医が,戦闘で被った傷のウジは感染を防ぎ,治りを早くすることを発見している。しかし,この軍医が新たな知見を実用に供してウジ療法を行ったかどうかはわからない。ベアによれば,西洋の医師としてはじめてウジ療法を実行したのは,南北戦争時の南軍の軍医であろうという。ベアはウジはたったの1日で,ほかに手に入るいかなるいかなる薬剤,いかなる手段を用いるよりもきれいに傷口を掃除すると述べた。そして,ウジを使ったことで,そうしなければ失われていたに違いない多くの手足,のみならず傷ついた多くの兵士の命を救えたのだと確信していた。
ベアの時代には,ウジ療法は医療技術として容認されるようになっていたと,シャーマンとその共同執筆者は記している。アメリカでおよそ1000人の外科医がこの療法を用い,レダーレ社では無菌化したウジを1000匹あたり5ドルで売っていた(現代の価格にすると100ドルに相当)。ウィリアム・ロビンソンによれば,1933年以前,アメリカ合衆国とカナダでは300におよぶ病院がこの療法を行っていたし,無菌ウジを培養する独自設備を備えた病院もあった。
ギルバート・ワルドバウアー 屋代通子(訳) (2012). 虫と文明:蛍のドレス・王様のハチミツ酒・カイガラムシのレコード 築地書館 pp.212-213
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